好きなことを始める話。イトバナシの刺繍と暮らし。

月に一度、たった3日間しかオープンしないお店があります。そのお店は東広島市志和町という静かな里山にあり、商品はインド刺繍という珍しいアイテム。今回の「あの人に会いにいく」は、同店のデザイナーでオーナーの伊達文香さん。伊達さんの「カワイイ」から始まったお店の誕生のお話は、自分が好きなこと、やっていて楽しいことに集中すると、予想以上に活動が広がっていく、そんなワクワクを感じさせてくれるものでした。

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ゲスト:伊達文香さん

伊達 文香さん 株式会社イトバナシ代表取締役、デザイナー。奈良県出身。広島大学在学中にインドを訪れ、インド刺繍に出会う。広島大学大学院在学中にインド刺繍を用いた婦人服のデザイン・制作・販売する「itobanashi」を設立。2010年より年に2回のペースでインドを訪れ、衣服のデザイン全般を手掛ける。出身地の奈良県五條市と、広島県東広島市志和町に店舗。

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やって面白いことを
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イトバナシのある東広島市志和町は、かやぶき屋根の家が6軒残る静かな里山。古民家を改装した土間と梁のある広い空間に、インド刺繍のアイテムや奈良産の靴下、ガーゼハンカチ、そのほか暮らしに彩りを添えるかわいらしいアイテムが並びます。靴を脱いで上がるスタイルで、田舎の実家に帰省したような心地よさです。

伊達さんが初めてインド刺繍に出会ったのは、広島大学の学生時代に「もっと広い世界を見てみたい」と訪れたスタディーツアー。インドでのボランティア活動で、インドの女性が抱える人身売買、HIV、DVといった問題を知り、被害にあった女性を保護するNGO団体に出会いました。

その団体では人身売買で教育を受けていない女性に対して、縫物などの職業訓練がさかんに行われていました。すてきな商品ができても、それを売る人がいない、プロモーションする機会がないとのこと。大学のサークルで見よう見まねで洋服を作ってファッションショーしていた伊達さんの頭の中に、あるアイデアが浮かびます。「ショーをして、作った作品を買ってもらえるようにしたらおもしろいんじゃない?」

伊達さんは大学から大学院に進み、文部科学省の助成金を使って再びインドへ。現地のNGO団体との共同で、クラウドファンディングで寄付を得てファッションショーを実施しました。「とても好評で続けたいと思ったのですが、すべて助成金や寄付でなりたっていました。自分たちでお金をつくっていく必要があると感じました」

故郷をいつくしむ
手仕事との出会い

ファッションショーの準備中、女性たちがほどこす刺繍を目にしました。「カワイイね」と声をかけると、「針を刺すことで気持ちが和らぐ」「故郷を思い出せる」と懐かしそうに教えてくれたそうです。故郷をいつくしめる手仕事に感動した伊達さんは刺繍について調べ、刺繍にも地域性があることを知ります。伊達さんは刺繍産地を巡る旅に出かけ、刺繍生地を買い集めました。そして、ビジネスプランコンテストで得た奨学金で服を作り始めます。それがイトバナシの始まりです。

しばらくは、場所を借りて作品サンプルを飾り、受注販売。アトリエとして東広島市志和町にあった地域図書室「ほたる荘」の2階を間借し、そして直営店として現在のお店を持つことになりました。

古民家を改装し、お店をオープンさせたのはコロナ禍真っ只中の2021年春。伊達さんの地元奈良で靴下をつくる友人の協力を得て、「ししゅうとくつしたのお店」をしたところ、3日間で200人もの来店がありました。この場所、お店のコンセプトに可能性を感じたそうです。

オープンまでの道のりは、明確な計画に基づいてというよりも、「できる人ができることをやっている、自分が楽しくできることをやってみようという感覚です」と笑顔で話してくれました。

刺繍から生き方の話に

インドの刺繍はつくられる地域によってまったく異なる表情を見せます。現在、イトバナシで扱っているのは3種類の刺繍です。

一つは、カシミール地方のアリ刺繍。目のそろったチェーンステッチで模様を描きます。寒い地域なので、ウールに施すことが多いそうです。

二つめは、ベンガル地方のカンタ刺繍。刺し子のような印象です。描かれるモチーフは宗教的な意味を込めたもの。動植物や身の回りの道具など、生活が垣間見えます。素朴で個性豊かです。

三つめは、チカン刺繍。ラクノワ地方で紡がれています。王宮文化とともに発展した優美な柄で、刺繍糸1色で美しい植物のモチーフを作り上げます。光にすかすと、刺繍の丁寧さがより際立ちます。

伊達さんが担当するのは、服の形のデザインと、刺繍自体のデザイン。刺繍はインドの図案集をもとに組み合わせてデザインします。

その土地に残る刺繍に紐づく文化や伝統を大事にしたいという思いから、刺繡をする生地の多くにインドの天然素材を使用。刺繍をした生地を日本の縫製工場で服に仕立てています。刺繍や布が無駄にならないように服のデザインや裁断を工夫しても、どうしても端切れが出ます。その端切れはセットやくるみボタンとして提供。

マスクも好評で、2021年夏には「端切れをゼロにしよう」というゼロウェイストプロジェクトとしてTシャツに。クラウドファンディングを利用した活動で、目標を大幅に達成しました。

ゼロウェイストプロジェクトのTシャツ、実は私も手に入れることができました。うれしくて早速着ていると、新しい服を見た中学生の娘が興味を持ってくれました。「これはインド刺繍の端切れでね…」と話し始めて、気が付くとインドの女性が抱える問題の話に。娘とこうした話を自然にできたことを、うれしく思いました。

伊達さんのてまひま

好き、楽しいで始めた活動が社会課題の解決につながることは、やりがいであると同時に、プレッシャーも大きいのではないでしょうか。「その質問は初めてです」と少し時間をおいて、ゆっくりと話してくれました。「社会課題は多種多様です。試練を知るほど、自分ができることなんてないのではないかと身動きがとれなくなります。私は、刺繍が好きだから、楽しいから、この店をやっているというのが正直なところです。ただ、基本的にどんなことも社会に必要なこと、ためにならない事業はないと思っています。必ず何かできると信じています」。

そんな伊達さんのてまひまは、「何事も面白がること」だそう。どんなことも楽しいことに変換できれば、未来はますます明るく見えてくるような気がします。

近々のお店のオープン日は、9月10日(金)~12日(日)の3日間。時間は11:00~18:00。
詳しくはSNSをチェックしてみてくださいね。





■イトバナシ「ししゅうと暮らしのお店」

住所東広島市志和町志和堀3231-1
電話番号080-5324-2847

あの人に会いにいく

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